仕事帰りにいつものレンタル屋でAVを借りようと思って寄ったら、1本50円セールってのをやってて、ウハーこりゃスゲエやって事になり喜んでAVコーナーに行ったんだけど、セール中ってこともあってかなりの数が貸し出し中だった。
それでも自分のお気に入りを選ぶ作業(別名:嫁探し)に没頭していたら隣で同じように嫁探しに没頭していた還暦はゆうに過ぎている爺さんが突然おれの方を向いて、「兄ちゃん、このシリーズ面白いぞ!見た方がいいぞ!」と人妻湯けむりなんたらとかいうAVを指差しながら大声で話掛けてきた。おれは一瞬何がなんだかわからなくなって「あっ…はい…?」という適当な返事をしたら、爺さんは「兄ちゃんのオススメは何だい??」と笑顔でおれに訊いてくるではありませんか!
御存知の通りレンタルビデオ屋のAVコーナーというのは男達の狩場であって、私語なんてものはほとんど許されないのですよ。にもかかわらず爺さんは一気に間合いを詰めてきた。周りの客もハンティングに集中しているフリをしておれ達の会話に耳を傾けているのが手に取るようにわかる。なんなんだこの四面楚歌は。
爺さんはいきなり赤の他人であるおれに対して性癖を晒した。そしておれにも性癖を晒せと強要してくる。AVを見始めてから15年以上経っているがこんな緊張感のある狩場は初めてだ。もしかしたらこれは神様が与えた試練なのかもしれない。確かにおれは最近、AVに対して真剣に向き合ってなかった。それは認める。でもそうだったとすればおれは神様に言いたい。余計なお世話だと。一刻も早くここから立ち去りたい。初夏なのに湯豆腐を食べて温まりたいくらいの気持ちになっている。
「…わかりました」おれは腹を決めた。棚から適当なAVを掴んで爺さんに見せてお茶を濁そう。それでいいんだ。優先すべき事柄はとりあえずここから逃げる事だ。そう心に決めて爺さんに適当なAVを勧めた。「じゃあ、これなんかどうですか?」爺さんがパッケージを見て、その後おれの目を見て言った。
「おっぱい小さいねえ…」
何故否定されなきゃいけないの!!おれは爺さんのソムリエじゃない。あと、おれが貧乳フェチだという間違った情報も周りに伝わってるから!謝って!色々謝って!各方面にとにかく謝って!
「でも、とりあえず借りてみるよ。ありがとね」と言っておれが勧めたAVを手にして爺さんはレジへ向かっていった。終わった…物凄い疲労感だけが残った。同じ日の同じ時間帯に借りてるから次来た時も会う確率が高いな…前日に返しに来ようと思いながら再びハンティングへと戻るのでした。爺さんマジ怖い。